現代社会は急速に進化し、「ビッグデータの時代」と称されることもあります。そして、時々刻々と蓄積される大量のデータは新たな知見の源ともなっています。こうしたデータの解析において注目を集めるのがデータサイエンスです。一橋大学が新たに設立する「ソーシャル・データサイエンス学部」は、経済学、経営学、法学、政治学、社会学などの社会科学と、統計学、情報・AIなどのデータサイエンスを有機的に融合させた先進的な学問領域です。
ビッグデータは「21世紀の石油」と呼ばれるほどの価値の源泉です。データの価値を掘り起こすデータサイエンスがいかに重要かに向き合っている一橋大学が、今後どのようなアプローチでこれに挑むのかを紐解いていきます。興味深い学問分野と未来の可能性について、一緒に探求していきましょう。
1. ソーシャル・データサイエンス学部の入試
一橋大学のソーシャル・データサイエンス学部では、独自の入試制度が整えられています。前期日程と後期日程が設けられ、志望者はそれぞれの日程から選択できます。前期日程では、大学入試センター試験が主要な指標となり、後期日程では大学入試共通テストを受験します。これらの試験に合格した学生が進むのが二次試験です。
共通テストでは数学の配点比率が高いため、数学のスキルが重要です。しかし、社会科学における理解も求められるため、幅広い知識と複合的な思考が必要です。学生は二次試験で、ソーシャル・データサイエンスに関連する科目に取り組み、その理解を深めます。この段階で示される学生のポテンシャルや独自性が、学部入学への鍵を握ります。
また、共通テストと二次試験の成績や適性試験の結果に基づき、一橋大学では独自の入試制度を構築しています。この総合的な評価により、多様なバックグラウンドを持つ学生が学び舎に集い、ソーシャル・データサイエンスの分野で将来的な活躍が期待されます。
2. カリキュラムの特徴
一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部のカリキュラムは、学士課程と修士課程で学生が広範な知識を修得し、ソーシャル・データサイエンスの分野で活躍できるように構築されています。
2-1. 学士課程
学士課程では、1年次からソーシャル・データサイエンスへの入門とその法・倫理を学びます。2年次にはビジネス領域、社会課題領域、データサイエンスの3領域で体系的な知識を修得します。この学習により、学生は経営学やマーケティングから社会課題や法律、データサイエンスまで広く学際的なアプローチが可能となります。
2-2. 修士課程
修士課程では、より高度な知識を修得します。1年次の必修科目では、データサイエンスの全体像とその倫理的・法的・社会的諸課題への理解を深めます。特にビッグデータに対応したデータサイエンス科目が選択必修として配置され、学生は統計分析や機械学習などの専門知識を磨きます。
これにより、学生は社会科学とデータサイエンスを有機的に融合させ、将来的なリーダーシップを発揮するための高度なスキルを身につけることが期待されます。
3. PBL演習
PBL演習(Project-Based Learning)は、一橋大学ソーシャル・データサイエンス学部の3年次必修科目であり、学生に実践的なデータ分析に参加する機会を提供します。この演習は、企業や政策機関から提供された現実の問題意識とデータに基づき、学生が社会科学の知識を活用して具体的な課題にアプローチします。
学生は1・2年次で修得した社会科学の知識を活かし、問題設定から始まり、データサイエンスの手法を用いて課題の解決方法を見つけ出します。データ分析の後は、再び社会科学の視点を取り入れ、分析結果から得られた洞察や含意を抽出し、実際の社会での活用方法について考察します。
このPBL演習を通じて、学生は理論だけでなく実践的なスキルを磨き、社会科学とデータサイエンスを有機的に結びつける経験を得ます。これにより、卒業後においても実践的かつ総合的なアプローチで問題解決に取り組む力が養われます。
4. ゼミナールと学際的な学び
一橋大学のソーシャル・データサイエンス学部では、伝統的なゼミナールを通じて学生に全人的な教育を提供しています。3~4年次の必修ゼミナールでは、学生は担当教員や他学生と濃密な議論を通じて深い学びを得ます。これにより、独自の問題意識を醸成し、その問題意識に基づく研究を実施します。最終的に、学士論文を執筆することで、本教育課程の成果をまとめます。
ゼミナールでは、異なる専門領域の教員や学生が集まり、様々な視点からの議論が行われます。これにより、分野横断的なアプローチが促進され、学生は広範で深い視野を養うことができます。また、ゼミナールでの議論や研究は、他学部開講科目の履修とも連携しています。
一橋大学では伝統的に学部間の垣根が低くなっており、学生は他学部の科目を自由に履修できます。これにより、本学部の授業で興味を持った特定の分野について、関連する他学部の科目を履修することが可能です。そのため、異なる視点からの学びを組み合わせ、知識やスキルを総合的かつ多角的に発展させることができます。これらの取り組みを通じて、学生は幅広い知識と深い専門性を兼ね備えた人材として育成されます。
5. 修士論文と研究指導体制
ソーシャル・データサイエンス学部では、修士論文の執筆を通じて学生が高度な研究力を養う仕組みが整っています。学生はソーシャル・データサイエンスの研究領域において、各自が選択したテーマに基づいて研究を進めます。この際、部門の異なる複数の教員による集団指導が特徴的です。
本研究科は、社会科学とデータサイエンスが融合する独自の学術領域であるため、異なる専門分野を有する教員が連携して学生を指導します。学生は主指導教員と副指導教員の両方からの指導を受け、異なる視点からのアドバイスを得ることができます。これにより、分野横断的・異分野融合的な研究が促進され、独自性のある研究成果を生み出すことが期待されます。
研究指導は演習や副演習を通じて行われ、学生は主指導教員のもとで一対一の議論を通じて研究テーマへの理解を深めます。同時に、必要に応じて副指導教員のアドバイスを得ることで、より多角的な視点から研究を進めることが可能です。この研究指導体制により、学生は卓越した研究者としてのスキルを磨くとともに、異なる分野との連携を通じて新たな知見を生み出す力を身につけます。
6. まとめ
ソーシャル・データサイエンス学部は、急速に進化する現代社会において、社会科学とデータサイエンスを融合させた革新的なアプローチを提供しています。将来展望として、本学部の学生は高度なデータ解析スキルと社会科学の知識を備え、ビジネスや社会課題に対処するリーダーとして活躍することでしょう。興味を持つ学生に対しては、学際的な学びと研究指導体制が豊富な経験を提供します。社会の課題に真正面から向き合い、データを駆使して解決策を導き出すプロフェッショナルを目指す方に、ソーシャル・データサイエンス学部が最適な場であることをお勧めします。
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